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幸太郎の事を考えていた若葉だったが、校舎を眺めている内に脳内には徐々に違う男の姿が比重を占めていく。
自分の顔が火照り始めた事に気付く若葉。
と同時に、周りに下校途中の同じ制服の女子が大勢居る事を思い出して一人で恥ずかしくなる。
気を紛らわせる為、そして体裁を取り繕う為、まるで誰かを探しているかのように周囲をぐるりと見渡す。
すると視界に映り出すのは鮮やかに色づいた世界。
春の陽気に包まれた、賑やかなれど長閑な風景。
若葉達の高校は、彼女の住む小都市の中でも比較的有名な池のほとりに建っており、【日本のさくら百選】にも選ばれている桜の名所。
受験に来た時には桜の樹は雪に埋もれ、池にはたくさんの白鳥が飛来してきていたが、今は既に4月の下旬。
関東や南東北よりも遅い開花を見せるこの土地の桜は今がまさに見頃であり、春風を受けて綺麗な花弁のカーテンを創り出していた。
平日の今日でも、小さい子を連れた家族連れや近所の老夫婦などが多く訪れており、4~5才くらいの男の子が桜の樹の周りをぐるぐると走り回っている。
風に靡く顎辺りまで伸ばした髪を押さえながら目を細める若葉だったが、花見客の中に見慣れた人影を見つけて目を丸くする。
「……美那さん?」
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