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「あぁ……そういえば」
「?」
徐ろにじっと幸太郎の顔を見つめだした大野。
何だろう?と思いながら、幸太郎は黙ったまま大野の次の言葉を待った。
「……幸太郎君の話を聞いていると、一番始めに狗神が現れたのは君の高校、そして君の友達の女の子が関わっていたみたいだよね。その女の子から話を聞けないかい?」
その提案は、幸太郎の胸につきりと小さな棘を刺す。
軽い痛みの後、今まですっかり忘れていたモヤモヤが心中で蠢きだしてきた。
……若葉の顔を思い浮かべると同時に、あの喧嘩別れの場面と市丸の顔もまた自然とセットで思い出されてしまう。
この変な感じはその所為なのか?と幸太郎は考えながらモヤモヤの波が通り過ぎるのを耐えて待った。
「……幸太郎君?」
苦渋に満ちたような表情を浮かべる素直な少年を、大野は怪訝な、そして心配そうな顔付きで窺った。
「どうした?大丈夫か?」
「……え?あ、はい」
やっと話し掛けられている事に気が付くと、幸太郎は少し青い顔のまま無理矢理笑顔を作ってみせたが、それは大野をより心配させるだけだった。
コンコンッ
二人の間に微妙な空気の流れる中、アパートの部屋のドアからノックの音が飛び込んで来た。
思わず二人顔を見合わせた後、無言で大野が立ち上がる。
物音を立てるなよ。
そう言わんとするように人差し指を口の前で立てながら、大野自身もそろりそろりと部屋のドアに近づいていった。
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