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「なっ、それなんですか。」
「そのまんまの意味だけど?」
この鈍感な子猫が、本当に俺のことしか考えられなくなって、俺で頭いっぱいになればいいのにと思った。
そしたらかわいがって、甘やかして、時にはからかって、溺愛してあげるのにと。
焦ってもしょうがない、今はこの泣きはらした子猫の悩みをとりあえず解決してあげるかと晃は思い、彩に向かって話し出した。
「大切にしてきたものが崩れることに恐怖も感じて、すべて手から零れ落ちそうだと思ったこと、このまま友達でいたいってことを、そのまま伝えてみろよ。お前のことを好きって言った真治というやつは、それくらいで縁を切るやつか?」
晃に抱きしめられながら首を強く横に振った。
彩は、晃の言葉を聞いた途端、服を掴み胸に顔を埋めて泣きじゃくって、そしてそのまま子供のように疲れて息を立てそのまま寝てしまった。
晃は、眠りに落ちた彩を抱えてベッドルームへ向かい、そのままベッドに下ろし、そこから離れようとしたが、寝ている彩は晃の指を掴んだまま離さない。
晃は本当に子猫だなと苦笑いしながら、ベッドに腰をかけて彩を見つめた。
(俺も、こんな男じゃなかったんだけどな。つい、お前を見てると調子が狂ってしまう……恋って難しいものなんだな。俺も、おまえが初恋なんだ。彩と出会わなければ、恋を知ることもなかったと思う。38にもなって……初恋なんてな。)
「俺も好きだと言ったら、お前はどう思うだろうな……」
いつもの強気の晃が影を潜め、聞こえそうで聞こえない弱々しい声でつぶやく。
そして、寝ている彩の額に軽めのキスを落とした。
(これくらいは、許してくれよ。今日の宿代だ)
彩が少し微笑んだ気がして、晃は目を細めて愛しい子猫を眺めた。
そして、握られていた指を解きベッドルームから静かに晃は出て行った……。
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