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晃からの電話が切れた後の彩は、その場で茫然と立ちすくんでいた。
会うのは早くても週明けで、来週は出張と聞いていたからメールだけのやり取りですむはずだったはずなのに、こんなに早く会うとは思わず焦りだす。
さっきの晃とのやりとりの中で、自分の言動でおかしかったところがなかったか考えるも、彩の会話に落ち度はなかったはずだ。
それなのに、晃はなにかに苛立ったように捲し立てて、迎えにいくと言っていたので、心配するようなことしたのかと思いもしたが、全く心当たりがなかった。
とりあえず、晃と対峙したときに不自然に思われないようにするため、第一声を噛まないようにと呟く。そして、いつもより幾分深い猫背のままトボトボと会社の前まで歩いているとクラクションが聞こえた。
「彩っ。止まれ!」
彩は、若干怒気を含んでる声にビクッとなり、声が聞こえる方へ振り返る。
「あ、あ、あきらさん……?」
彩は、愛しい人を見た瞬間、さっき自覚した気持ちが鮮明に思い出され、急に恥ずかしくなり目を逸らして真っ赤になって俯いた。
「彩、車にほら乗って!」
「あっ……、えっ、は……い」
密室空間では、自分の胸の高鳴りも、晃を見て顔が紅潮してしまうことも、彩が抱いているこの気持ちを見透かされそうで怖いと思ったが、晃に促されるまま助手席に乗った。
まただ……この助手席に乗るたびに、彩は本当にいろんな気持ちの局面に立たされている。俯き加減だった視線を上げ、チラっと晃を見るも、なにかに怒ってるようで眉間に深い皺を刻んでいた。
しかし、このまま黙ったまま助手席に乗ってるわけにはいかない。
晃の今の態度を見ていると、先ほどの電話で心当たりはないが、なにか怒らせてしまうことをしてしまったのだと思った。
彩は、俯いたまま、おそるおそる晃に話しかける。
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