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晃は、経理部のメンバーを一通り見渡し、そろそろ次の部署にでも行こうかと思った視線の先に、さっきまで存在してなかった猫背の男が目に入った。
(ん?あんな男さっきまでいたか?)
そう思った瞬間、隣にいる経理部の佐々木が咳ばらいをした。
猫背の男はビクッと身体を震わせ、背筋をピーンとさせて俺を見ている。
晃は、その猫背だった男を見て、何かを思い出したようにハッとした。
(あいつは、金曜日にトイレと間違って部屋に入ってきた猫背男じゃないか!
うちの社員だったのか?面白い掘り出し物をみつけた)
晃は、自然と口の端を上げて微笑んでいた。
ほかの人からは微笑んでるとわからないような眉間に皺を寄せながら。
「専務、次の部署にいきましょうか」
「あぁ」
秘書の酒井にそう促されて返事をした晃は、ほかの部署では行わなかったが、経理部のメンバー1人1人握手をし、「よろしく」とらしくないことをしていた。
酒井も、俺が社員に対してこんなことをしていることにビックリしていた。
そして、とうとう晃は、彩の前に来た。
手を差し出し握手を求める。
彩も、答えるように手を差し出した。
「つっ!!」
ギュッと力強く握った晃は、自分の方へ少し握った手を引っ張った。
よろけた彩は、晃に少しもたれかかった。
その瞬間、また佐々木の咳ばらいが聞こえた。
「せ、専務。す、すみません。僕・・・」
ビクッっとなった彩は、まるで子猫のようだった。
離れようとした彩を少しだけ手を強く引き、自分から離れないようにした。
「金曜日ぶり。猫背ちゃんっ」
晃は、そう彩の耳元で囁いた・・・
彩は、晃のその声を聞いてパッと顔を上げ、目の前の男を見つめた。
晃を見つめる目は、怒りに目を見開いて真っ赤になっている彩の姿をみて、晃はますます口の端が緩む。
「あっ・・・」
「猫背ちゃん、うちの社員だったんだな。それは楽しみだ」
小声でそういうと、晃は手を離した。
「よろけてたが、大丈夫か?君、名前は?」
「く、黒須 彩です」
彩は、再び話しかけてきた晃を、怯えた目で不安そうに見ていた。
(ちょっとしたことでビクつくとか、たまんないな・・・)
「黒須君、これからよろしく頼むよ」
そういうと、先ほどのことが無かったかのように、再び晃は口の端を少し上げて、手を差し出した。
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