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専務の挨拶が終わった後、彩は自分のデスクに戻ってきた。
視線を右手に落とし、左手で右手を摩っていた。
先ほど、専務に引っ張られて強く握られた右手が痛い。
『金曜日ぶり。猫背ちゃんっ』
専務は、僕に向かって耳元でそう囁やいていた・・・。
『猫背ちゃん、うちの社員だったんだな。それは楽しみだ』
専務の声が、耳に熱を持ったみたいに離れない。
まさか、あの男に会社で出会うと思ってなかった。
挨拶に来た彼も、金曜日に見た彼とは違っていた。
素敵ないい生地を使ってるだろうオーダースーツなのは変わらなかったが、髪の毛はオールバックで切れ長の目は、より一層獰猛な狼の目をしていて、怖かった。
女子社員からはカッコいいと噂になっていたようだが、彩は怯えに似た怖さしか感じなかった。
(あの人、僕に『楽しみだ』って言ってた。どういうことだろう・・・。)
思い出した途端、ブルっと震え、得体のしれない恐怖感を彩は覚えていた。
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