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「あ……」
「なんだ?」
「さっきまで覚えていたのに…僕、すっかり忘れてました。真治と酒井さん…ご、ごめんなさい」
彩は、顔を真っ赤にして二人を交互に見る。
真治は、そんな彩をみてニヤニヤした笑顔で右手を顔の前で振った。
「気にすんな。元々専務とデートだったんだろ?俺たちは邪魔だし退散するよ。また明日、経理部に押し掛けるから、吉田さんと一緒に話聞かせろよ。ほら、酒井さんもいくぞ」
「えっ。あ、あき……らさん?」
「なんだ、悠?」
「…あっ……ほんとに…」
消え入りそうに呟いた酒井の腕を真治は引っ張った。
晃は、不思議な顔をしながら酒井を見ていると、真治は酒井に向かって口を開く。
「ほら、酒井さん、専務に何にもいう事なんてないだろ?いくぞ。そうだ!あんたも車で来てるのか?」
「く、車だけど……?」
「じゃあ、俺それで帰るわ。家まで送ってよ」
「なんで、私があなたを…?」
「二人は別の車だろ?俺たち邪魔だし、それに夜遅いからついでに送ってよ。いいだろう?黒須、じゃあな。俺は、酒井さんと帰るわ。専務、黒須をよろしくお願いします」
そういうと、真治は酒井を引っ張るように連れて2人の元から離れていった。
少したつとエンジン音と共に、酒井の車が駐車場から出て行った。
「俺らもいくか」
「はい」
そして、彩たちも駐車場を後にしようと助手席に座った彩は、深呼吸をして晃の匂いを胸いっぱいに吸い込んだ。
強い嵐が過ぎ去って、穏やかな温かい風が彩の中に吹き込んだように感じた。
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