苦々しい思い

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「せ、専務・・・。どうして」 「俺の会社にいちゃ悪いか?」 「いや、決してそんなことは・・・。 ただ、経理部の近くにいるっていうのは、あまり・・・」 「あまり?」 「考えられないです。せ、専務の部屋は経理部の通路を、と、通らない・・・」 晃は、彩の黒くて艶やかな髪の毛を触った。 ビクッっと肩を震わせた。 「黒須くん?」 「は、い。なんでしょうか」 彩は警戒心MAXな状態で、カバンを胸に抱えて晃を見る目が、濡れて大きく見開かれている。 晃は指で金曜日と同じように彩の顎を上げた。 「俺と遊ばないか?」 「あ、あそぶ?え?どういう事ですか?友達がいないから?」 彩は、言った瞬間ヤバいと思って、口を押えた。 金曜日に一人であんなところにいて、彩が思ってたことがつい口に出てしまった。 「くっくっくっ。友達がいない?なぜ?」 「あっ、す、すみません」 自分が言ってしまったことを後悔して、彩は項垂れた。 「どうだ?一緒に飲みに行ったりしないか?」 (こ、この怖い人と?飲みに行く? 説教とかされたり、こないだみたいにバカにされたり・・・ いじめられるだけじゃないのか?こ、怖い・・・) 警戒信号がけたたましく音が鳴っていて、動悸が激しくなる。 『危ない、その男には近づくな!!!』 「け、結構です!!!!」 そう伝えるとカバンを抱えたままダッシュをして、エレベーターへ乗り込んで『閉』ボタンを連打した。 エレベーターが閉まった瞬間、激しかった動悸が少しずつ収まってきた。 (あの人、本当に友達がいないのかもしれない・・・ 友達になってあげるくらいしたら良かったかな?) 彩は、少しかわいそうに思ったが、すぐさまかぶりを振った。 俺様気質の人にかかわるのは、2人で十分なんだから。 そう思い直すと、会社を出て地下鉄の駅へ向かった。
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