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「あっ、ごめんなさい。起こしてしまいましたか?」
両腕を伸ばし大きな欠伸をしながら、晃が言う。
「いや、大丈夫だ。それより、彩は早起きだな」
「えっと、僕は寝るの早かったですし、それにちょっとしないといけないこともあって」
「しないといけないこと?」
(あ、やばい。また、変なことを口走った……。僕のバカ!)
「た、たいしたことないので。それに、もう大丈夫です」
そう言いながら彩は、ぎこちなく微笑んだ。
表情筋が凝り固まってしまい、つい笑顔が硬くなってしまう。今まで、人に対し隠し事をあまりしてこなかった彩は、こういう時の取り繕い方がよくわからない。
咄嗟に伝えた言葉で、変に思われていないだろうかと焦る。そして、鋭い晃の瞳と視線を絡ませてしまうと黙って行動しようとしていることさえも見透かされそうで、さりげなく視線を外した。
「大丈夫?」
「あ、えっとー……姉に今日の夜は、家に帰るって伝えてたんです」
(これなら、自然か?)
「…………」
(えっと、この沈黙なに? 僕が、なにかしようと思ってることバレた?)
「あ、あき……らさん?」
急に訪れた沈黙に耐えきれなくなった彩は、晃の名前を呼ぶ。
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