3137人が本棚に入れています
本棚に追加
/305ページ
結局、火曜日から木曜日まで彼に会うことはなかった。
それは、当然といえば当然で、彼がいつもいる重役室は経理部のある5階ではなく、20階という高さで、エレベーターも重役専用のエレベーターがある。
だから、月曜日はたぶんわざわざ彩に会いに来てくれたのだと思う。
そう考えると、ますます彼に悪いことをしたなと思った。
彼への自分の態度を思い出すと気分がふさぎ込んで、彩の猫背度合いもそれに比例して深い猫背になってしまっていた。
「黒須ー!なぁーに落ち込んでるんだよ」
颯爽と明るい声をあげながら真治が経理部にやってきた。
あぁ、一気に経理部が華やいだ。
イケメンって空気さえも変えてしまうもんなんだなと思った。
「どうしたの?今日はなんか用事?領収書の話とか?」
「いやいや違う!なんかさー、出張から帰ってきたら噂を聞いてさ、心配してやってきたんだよ」
「は?噂?」
「お前と専務の話」
「え?専務とは接点が無いんだけどなんで?」
お前知らないのか?という不思議な顔をして真治は彩を見ていた。
思い当たる節がなかった彩は、きょとんとした顔をしながら、真治を見た。
「月曜日、専務の胸に倒れ込んで、顔を赤らめていたって」
彩は、デスクに両手を付き勢いよく立ち上がった。
「えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!なにそれ!!!!」
真治は、びっくりして、口元に人差し指をあて静かにというポーズをとっている。
彩は、肩を窄め椅子に座りなおした。
最初のコメントを投稿しよう!