苦々しい思い

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「黒須、今の彼女の発言はなんだ?お前名前聞かれたのか?」 (あ、吉田さん変な爆弾落として・・・めんどくさくなってしまったじゃないか) 彩は頭を掻きながら、少しパソコンに目線を落としてボソッと話した。 「いや、たまたまだよ。よろけたし、部長に背筋ピーンとしとけって言われたのに、猫背でいたから気になったんじゃないかな。失敗しちゃった」 「はっ?そんなことで名前聞くか?」 「でも、僕は専務じゃないから、名前聞いた気持ちなんてわからないよ」 月曜日の夜に『遊びたい』と誘われたことは、黙っていた方がよさそうだ。 真治に隠し事したくないけど、いろいろ突っ込まれたり、真治は周りに話さないだろうけど、これ以上会社の噂になるのも避けたかった。 ただただ地味に生活を送りたいだけなんだ。 「真治、ほら仕事に戻らないと、金曜日なのに残業決定になってしまうよ」 「あぁ・・・」 真治はまだ僕に話したそうだったが、しょうがないなと渋々席を立って経理部を後にした。 (あ、真治にウソついちゃったな・・・) 暗い気持ちのままパソコンに目を落とした。 でも、言えないじゃないか、専務と金曜日に実は会っていて、からかわれて、啖呵を切って、月曜日に再開して、揶揄われて、最後には遊ぼうって誘われたなんて。 僕だって『なんで』って思ってるのに、色々質問されてもこの一連の出来事をうまく伝えれる自信がない。 友達がいないからだと伝えるのも、専務の尊厳にかかわるし・・・。 そうだ、今日までなにもなかったんだ。 きっとこれ以上なにもないから、真治に言わなくても大丈夫なんだと頭で何度も何度も言い聞かせていた。 「さぁーて、金曜日まで残業したくないからがんばろ!」 スクリーンセーバーがかかってたパソコンを解除し、気持ちを入れ替えて彩は仕事に戻った。
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