プロローグ

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朝に部長に怒鳴られはしたが、なんとか就業時間まで追加で怒られずに済んだことに胸を撫で下ろした。 彩が勤務する経理部は、9時~18時が勤務時間となっている。 月末、長期休暇前、決算月、年度末と忙しさのピークは大体決まっていて、その時は残業ばかりで疲弊するが、今日のような月初は比較的に暇なので、定時に終わることが多い。 (はぁー疲れたぁ。なんとか金曜日を乗り切ったー。真治いつ来るかなー。まだかな?) 机を整理整頓していると、経理部のドアを開けて背の高くて爽やかな同期が顔を見せた。 「よっ、黒須も仕事終わったか?」 「ん。今終わったところ。真治は、もう大丈夫なの?」 「今日は、内勤だったから、もう上がってきた。飲みに行こうぜ。いつもの所でいいか?」 「うん。任せるー」 「黒須、カバン渡せ。ほら、行くぞ!」 「カバンくらい持てるって!」 「お前は、それでなくても猫背で、カバンを抱えて歩くから、遅くてしかたない。余分なものは持つな!」 「ひ、ひどいっ!」 彩は頬っぺたを膨らませて、いつもの猫背になり、真治の横に引っ付いて歩く。 週末の夜は、道行く人もどこか浮足立ってるように見えた。 背筋がピンとしていて、足の長い真治にすれ違う人がたまに振り返ったりしてる。 真治の顔を見上げ、まじまじと顔を見る。 (やっぱり、このくらいグイグイ引っ張ってくれて、優しくて、思いやりもあって、気遣いも出来て、なにより爽やか高身長イケメンだと世界が変わってたのかな) 「なんだ?俺の顔になんかついてるのか?」 ブンブンと彩はかぶりを振った。 「じっと見るなよ。なんか付いてるのかと思うだろ?」 「だって、すれ違う人みんな真治を見てたよ?」 「気のせいだよ」 「カッコいいからじゃないかな。僕なんて、猫背でおどおどしてて、いいところゼロだから、真治みたいになりたかったなぁー」 「なんだ、それ。黒須は母性本能くすぐるタイプだろ?それはそれで需要あるんじゃないか?」 「需要あったら、27歳にもなってあぶれてないよー」 たわいもない話をしながら、お店へ向かった。
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