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『20時に待ち合わせしよう』と彩にメールを送り、帰る準備をしていたところに、悠に話しかけられた。
「今日の晃さん楽しそうだけど、なにかあるの?」
「まぁな。」
「もしかして、新しい女の人?」
「いいや。子猫」
「え?動物飼いだしたの?えー面倒みれるの?それに、動物とコミュニケーションとれなくて嫌われそうなのにー」
「心外だな」
チッっと舌打ちして、悠を睨みつける。
そんなにいつもと違ってそわそわしていただろうか。
晃の態度を見て、悠は悪びれもせず、舌を出し『ごめん、ごめん。今度会わせてよ』と笑っていた。
晃は、「いや、大事にしたいからまだ会わせない」と悠に言うと、足早に専務室を出てエレベーターに乗って彩が待つ地下駐車場へ向かう。
駐車場に着くと、晃の車の前にカバンを両腕に抱えて俯きながら、まるで忠犬ハチ公のように微動だにせず晃が来るのを待っていたようだ。
(あいかわらず、所作が可愛らしい……)
「彩?」
「あ、晃さん。お、おつかれさまです」
晃が声をかけると、パッと顔を上げて晃の顔を見てきたが、すぐ俯く。
その顔には少し陰りがあって、まだ俺のことが怖いと思ってるのかもしれないと思った。
最初から威圧的に出過ぎたかな……、でもあれもあれで俺だしな…と少し反省し、晃は彩が抱えてたカバンを奪い、助手席のドアを開け、助手席に乗せた。
助手席に座った彩は、ずっと俺の顔を穴が開くくらい真剣に見ている。
「なに見てんだよ」
「いや…大人でカッコいいなと思って。僕に無いものたくさん持ってるなぁーって見てました」
晃は急にその言葉に恥ずかしくなり、彩の頭をクシャクシャにしながら、会社の地下駐車場から車を発進させた。
彩はずっと、眉毛を八の字に下げながら窓の外を見ていた。
やはり、俺と二人でいる空間が怖いのかと思い、晃は静かに話しかけた。
「顔が強張ってる。怖いのか?」
そういうと晃は彩の頬を手で撫でると、ピクッと彩の身体が強張った。
「俺が。まだ怖いか?」
「ち、違います。晃さんはもう怖くないですし、今日の事は楽しみにしてました」
「それならいいが…。なんだか、辛そうな顔してるぞ。仕事疲れたのか」
「…………」
彩は、晃の横顔をチラッと見て再び俯いた。
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