【勝手な僕の想像】

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 彩は、初体験という名の甘くて幸せな体験をする予定だった。彩の……脳内予定ではそうなるはずだったのだ。  その為に念入りに彩は準備をしたのに、現実は上手くいかなかった。  何度、想像と現実のはざまで、失敗してるのに学習能力がないというのは、27歳恋愛初心者としては、当たり前なことなんだろう。そう思わないとやっていけない。彩だって、それなりに健全な大人の男なのだ。  失敗したというと気が気じゃなかった……。 ***  俯きながら、いつもの創作居酒屋で出されたおしぼりを手に、捻ったり、たたみ直したりと落ち着かない様子で少し小さめな声で彩は、真治とみるきぃに相談を持ち掛けていた。 「あのさ……、真治と吉田さんっていつ?」  真治とみるきぃがお互いの顔を見合わせ、再び不思議な顔をしながら、質問の主である彩にみるきぃが質問を投げかけた。 「黒須さん、何がです?」 「あ……、あれだよ。あれ……」  再び恥ずかしそうに俯きながら、もじもじとしている。 「いつってなんだよ?主語がない。黒須は、俺たちに集合をかけて、何を聞きたいんだ? 俺は、お前たちのラブラブな話なんて聞きたくないんだからな。少しは察しろよ」 「……ごめん」 「まぁまぁ、落ち着いて。でも、私たちが集められたってことは、専務との話ってことでしょ。今回は、どんな悩み事?」  二人の顔を一瞬見た彩は、二人に聞こえるか聞こえないかの声で呟く。 「は……初……体、験……」 「なんの?」 「その……、あれ……世間一般的な、大人の階段を……登るヤツ……」 「はぁ? お前なぁ、なんだよその回りくどい説明はっ!」 「あぁー。黒須さんは、私たちがいつ初体験をしたのか聞きたいってこと?」  彩は、首がちぎれんばかりに大きく深く頷く。 「なんで、そんなこと聞きたいんだよ。そんなの聞いたところで、お前に何の得にもならないし、俺らも恥ずかしいだけだろ?」 「ち……違うんだ。僕、27年目にしてほら、彼氏というか相手が出来ただろう? あれが正解だったのかわからなくて……。経験豊富な2人の初体験を聞いたら、間違ってなかったとかわかるかなって……」  彩は、真剣な表情と声色で二人に訴えかけた。それだけ、彩は必死だった……。  世間でいう所のスパダリとひょんなことで、なぜだか付き合うことになる。地味が服を着て歩いてるような、何の取柄もない僕が、だ。
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