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第一章 -癒えない傷口-
「えっと…これでだいたい頼まれたものは揃ったかな?」
縦横無尽に走る、迷路のような地下のショッピングセンター街をようやく抜け出し、叶多はそう言いながら両手に持った紙袋を掲げ上げた。
「そうだな、こんなもんだったはず。じゃああとは最後に書店に寄っていいか?」
すると隣を歩いていた颯真が歩調を緩め、上から紙袋の中身を覗き込みながら、そう言って伺うように視線をあげた。
「書店? って、また本? まさかハードカバーの専門書じゃないだろうね。あれ、重いから買うなら自分で持ってよね」
「そりゃもちろんそのつもりだよ。だから寄るのも最後にしたんだから」
露骨に嫌そうな表情をみせる叶多に颯真が両手を合わせて拝む仕草をすると、叶多は仕方ないなあと小さく肩をすくめながら、地下街のショップリストが記載されたガイドを広げてみせた。
「書店…書店っと。ここからだと東に戻ったほうが近いね。あーあ、もうちょっと早く言ってくれれば戻らなくてすんだのに……」
「だったら外に出て大通りへ行ったほうがいいんじゃねえか? あっちのほうが品揃えもよさそうだ」
大通りにはビル全部が書店という有名な大型書店がある。ただし距離的にはショッピングセンター内にある書店の倍だ。
「……最初からそれ狙ってただろ」
呆れたように小さくため息を吐く叶多を見ても颯真は飄々とした表情を崩さず、かわりに不敵ともいえる笑みを浮かべた。
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