第一章  -癒えない傷口-

31/42
前へ
/105ページ
次へ
「背中、まだ痛むか?」 「そう…だね。でも、僕……いつ怪我したんだろう」 「え?」 「もしかして何も覚えてないのか?」  颯真の後ろから結月が珍しく大声をあげたので、叶多の視線が結月へと向けられた。 「何もって……?」 「てめえ、やっぱりホラ吹いたのか?」 「違うっつってんだろ」  すかさず大和が颯真に詰め寄るのを無視して、結月はのしかかるように叶多のベッドに身を寄せた。 「叶多、ゆっくり考えながらでいいから答えてくれ。何をどこまで覚えている?」 「どこまでって……」 「俺と一緒に買い出しに出かけたのは覚えてるだろう?」  結月のうしろから伸びあがるようにして颯真が声をあげた。 「ああ、そう言えば……えっと……みんなに買いだし頼まれて……」 「そうそう」 「最後に颯真が本屋に寄りたいって言ったから、地下街から上の大通りにあがって……」 「その大通りで何があったか覚えてるか?」 「えっと……確か…事故が……車の接触事故があったんだ」  ほらみろといったふうに颯真が大和を振り返った。 「急いで、現場に駆けつけて……男の子が一人、崩れたブロック壁の下敷きになってたんで、助けてあげて……」 「その子の名前、覚えてるか?」 「名前?……えっと……」  そこで叶多の言葉が途切れた。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加