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「……電話、しないのか?」
「うん……まだ、ちょっと…ね」
叶多のスマホの中には、実家の電話番号も、もちろん幼馴染みである正人の番号も入っている。本当に叶多が助けた正人は生きているのか。叶多はすぐにでもそれを確かめるのだろうという颯真の予想を裏切り、何故か叶多はいっこうに正人に連絡を取ろうとしなかった。
ただ、少なくとも一年前に叶多の地元でそういった事故があり、亡くなった少年がいたという記事はどこにも見当たらないので、その点からだけでいえば、本当にあの事故そのものがなくなったのは間違いないと思われた。
「……怖い?」
「そう…だね。怖いっていうか……うん、そうか、怖いんだ、僕は」
淡々とつぶやくようにそう答え、叶多は力なく微笑んだ。
比較的すぐに体力も回復した颯真と違い、何故か叶多の体調はいっこうに戻る気配がない。背中の傷に関しても、化膿こそしなかったとはいえ、少しも治ってくる気配がなく、いまだにズキズキと痛みが押し寄せてきているようだ。
すっかり病人のようにベッドに縛り付けられている叶多は、なんだかあまりにも儚く見えて、今にも消えてしまいそうで。
颯真はおもわず叶多の手をぎゅっと握りしめた。
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