第一章  -癒えない傷口-

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「大丈夫。そんなトラウマだって、正人が生きてる実感が持てたら、いつか消えてくれるさ」 「消えて……いいの?」 「そりゃいいだろう?」  あの事故はもうなかったことになったのだ。原因そのものが存在しないのに、トラウマだけ残るほうが不自然だろう。  そう思い、颯真はさらに叶多を安心させようとポンッと肩を叩いた。 「とにかくお前はちゃんと奴を、正人を救ったんだ。正人は死んでない。ちゃんと生きてる。そう思って嫌なことはみんな忘れちまえ」 「それは無理。僕は僕の罪を忘れちゃいけないんだ」 「……え?」  なにかの聞き間違いだろうか。今、叶多はなにを言った?  颯真は叶多の顔を覗き込み、探るような視線を向けた。 「罪……?」 「そう」 「えっと……それは、どういうことだ? 罪ってなんだよ。お前のどこに罪があるんだ」 「罪はあるよ、颯真」  叶多の口調は悔しいほどに冷静だった。 「時空を歪めて、あったことをなかったことにして、あの出来事そのものをなくしたとしても、それでも消えない罪があるんだ。僕の中には」  そう言って叶多はギュッと唇を噛み締めると、逃れるように颯真から目を逸らした。
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