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「大丈夫。そんなトラウマだって、正人が生きてる実感が持てたら、いつか消えてくれるさ」
「消えて……いいの?」
「そりゃいいだろう?」
あの事故はもうなかったことになったのだ。原因そのものが存在しないのに、トラウマだけ残るほうが不自然だろう。
そう思い、颯真はさらに叶多を安心させようとポンッと肩を叩いた。
「とにかくお前はちゃんと奴を、正人を救ったんだ。正人は死んでない。ちゃんと生きてる。そう思って嫌なことはみんな忘れちまえ」
「それは無理。僕は僕の罪を忘れちゃいけないんだ」
「……え?」
なにかの聞き間違いだろうか。今、叶多はなにを言った?
颯真は叶多の顔を覗き込み、探るような視線を向けた。
「罪……?」
「そう」
「えっと……それは、どういうことだ? 罪ってなんだよ。お前のどこに罪があるんだ」
「罪はあるよ、颯真」
叶多の口調は悔しいほどに冷静だった。
「時空を歪めて、あったことをなかったことにして、あの出来事そのものをなくしたとしても、それでも消えない罪があるんだ。僕の中には」
そう言って叶多はギュッと唇を噛み締めると、逃れるように颯真から目を逸らした。
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