第一章  -癒えない傷口-

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   **  朝日が昇る前に飛び起きて出発した。澄んだ空気の中で自転車を漕ぐのは、想像していたよりずっと気持ちがよかった。  それなのに。  運悪く、行きも戻りもどちらへ向かってもかなり距離があるだろう山の中央での立ち往生。 「このまま押して行くか、一旦戻ってタイヤの修理キット買ってくるか。どっちが楽だと思う?」  そう尋ねてきた正人に、叶多はどっちが楽かと言ったら修理キットじゃないかと答えた。  押して行けないことはないが、さすがに何キロも、しかも山道を行くのはかなりきついだろう。そう考えたのだ。 「だよなあ……しかたない。山一つ戻った所に大型ショッピングモールがあったはずだ。ひとっ走り行ってパンク修理キット買ってくるよ」 「ひとっ走りって、正人が行くの?」 「当たり前だろう。パンクしたのは俺の自転車なんだから。ってことで、ちょっとお前のチャリ貸して」 「……一人で戻るの大変だよ。一緒に行く」 「あのなあ。一緒にって、二人でどうやって戻るんだよ。さすがに山道の二人乗りはきついし、だからって歩いて戻るなんて論外。一人でチャリ漕いでチャチャッと往復した方が早いし楽なんだ。気にすんな」 「……そう?」 「へたしたらかなり待たせちまうかもしれないけど、昼寝でもして待っててくれよ」 「わかった」 「じゃ、行ってくる」  そう言って正人は叶多の貸した自転車にまたがって行ってしまった。  確かに、パンクした自転車には乗れないから、二人で歩いて戻るか、無事な方の自転車に乗って一人で戻るかしかない。だとすればここは正人に任せた方がいいだろう。  とても軽い気持ちで、叶多はそう考えたのだ。   **
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