第一章  -癒えない傷口-

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「戻って目当てのものがなかったら、さらに倍歩かなきゃいけないんだから、だったら最初から外に出たほうがいいんじゃね? ってこと」 「ってか、普通の書店に置いてないようなもの探してるの? いい加減にしないと寮の僕達の部屋、そろそろ床が抜けちゃうよ」 「そんなこと言うなよ。夏休みには整理して実家へ持ってくから、もうちっと我慢してくれ」 「夏って……まだ今は五月だよ。いったい何ヶ月我慢させる気なの」  今は五月。ゴールデンウィークの真っ最中。そして現在二人が住んでいるのは、某高校の男子寮だ。約一年前、二人が同室になった当初は、二人部屋なのだからそれぞれのパーソナルスペースは半分ずつと決めていたはずだった。それなのに、この一年の間に、いつのまにか叶多のスペースに颯真の購入した本が侵食を始め、今では部屋の半分以上が颯真の荷物(主に書籍)となってしまっているという現状なのだ。 「あーあ、こんなことなら、年度末に部屋替え申請するんだった」 「そういうつれないこと言うなよ」 「言われたくなきゃ、自重しろっての」  実際、申請用の書類が回ってきた時、叶多も颯真もほとんど内容を読みもしないで、継続希望に丸を付けて提出をした。つまり口ではこんなことを言いながら、叶多も本心では部屋替えをするつもりはさらさらなかったのは事実なのだ。  だが、だからといって、ここで甘えさせてどんどん颯真がつけあがるのも癪なので、叶多も少々無理にでも意地悪さ加減を増大させて文句を言ってみたりする。まあ、それがどの程度効果があるのかは、はなはだ疑問だったのだが。
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