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叶多は静かに首を振った。
「知らなかったから。気付かなかったからって、そんなの言い訳だ。僕が、そうすることを選んだんだから、あれは僕の所為なんだ」
「そうじゃないって」
「だから僕は人殺しなんだ」
「……!」
正人の死は、叶多の中に存在する罪の結晶。
叶多は、この一年間、ずっと。
ずっと自分が正人を死に追いやったんだと考えていたのだ。
自分さえあの時、一緒に戻っていれば。いや、そうでなくとも、もう少し早く感づいていれば。あとほんの少し早く動き出していれば。
そうすれば正人を救えたかもしれないのに。
「で……でも、あの事故はもうなくなった。起こらなかったんだ」
「だからこそ…だよ」
そうつぶやきながら、やはり叶多は微かに笑っていた。
もうほかにどうしようもなくて。
颯真にはそんな感じの笑顔に見えた。
「あったことをなかったことにして、事故そのものをなくしたとしても、僕が正人を殺したってことは事実だ」
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