第一章  -癒えない傷口-

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「でも、それは……」 「わかってる。今さら誰に言ってもどうしようもない。もう、事故はなかったことになったんだから。起こってもいない殺人は、誰にも裁くことは出来ない。誰も僕を責めない。でも、だったら僕の中にあるこの記憶はどうすればいいの?」 「…………」 「もう誰も僕の罪を覚えていない。正人のご両親も、正人の友人もみんな。でも、あるんだ。ここに。僕の記憶の中に。今でもある。消えてなんかいない」 「……叶多」 「僕は、どうして、こんなになってまで生きてるんだろう」  そうつぶやいて、叶多は膝を抱えた。  この世界から消えた正人の死。それなのに消えてくれない罪の記憶。  赦してほしい相手がその罪そのものを覚えていなければ、その罪自体が存在しないのであれば、もう誰も自分を赦してくれる者はいないのだ。  叶多の記憶の中にだけある罪。それは、それこそ永遠に消えることはないものになる。  なんという矛盾だろう。こんな方程式、誰も解くことなんか出来やしない。  あれほど望んだ正人の命。助けたかった命。後悔なんて決してしてはいない。  でも。それでも。  それでも、叶多はもう、誰からも赦されることはなく、叶多自身も、自分を赦そうとはしないのだ。 「ごめんね、颯真」 「なんで俺に謝るんだよ」 「だって、君、なんだかとても辛そうな目をしている」  叶多がそっと言った。  風が出てきたのか、部屋のカーテンがふわりと揺れた。そんな中、叶多は膝を抱えたまま、もう、颯真が向ける視線を受け止めようとはしなかった。
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