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叶多は眠っていた。ベッドの上で。
そして、そんな叶多をじっと見つめるひとつの影があった。
どう見ても生身の人間ではないゆらゆらと揺れるその影は、やがて颯真が知っているひとりの少年の姿を形作っていく。
「……正人…か?」
名前を呼ばれてその少年は顔をあげ、颯真のほうへと目を向ける。
健康そうな肌の色に、意志の強そうな太い眉。黒曜石のような印象的な瞳。
見たのは一瞬であったが、絶対に忘れられない顔。
真っ直ぐな瞳をして颯真を見つめた少年は、やがてひとつの言葉を綴った。
“……こいつを連れて行く”
「……!」
“……もう、お前では無理だ”
熱い風が部屋の中に吹き荒れる。
“……だから、もう邪魔をするな”
颯真は、ありったけの想いを込めてその少年を睨み返した。
―――――次の日、叶多が消えた。
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