第一章  -癒えない傷口-

42/42
6人が本棚に入れています
本棚に追加
/105ページ
 叶多は眠っていた。ベッドの上で。  そして、そんな叶多をじっと見つめるひとつの影があった。  どう見ても生身の人間ではないゆらゆらと揺れるその影は、やがて颯真が知っているひとりの少年の姿を形作っていく。 「……正人…か?」  名前を呼ばれてその少年は顔をあげ、颯真のほうへと目を向ける。  健康そうな肌の色に、意志の強そうな太い眉。黒曜石のような印象的な瞳。  見たのは一瞬であったが、絶対に忘れられない顔。  真っ直ぐな瞳をして颯真を見つめた少年は、やがてひとつの言葉を綴った。 “……こいつを連れて行く” 「……!」 “……もう、お前では無理だ”  熱い風が部屋の中に吹き荒れる。 “……だから、もう邪魔をするな”  颯真は、ありったけの想いを込めてその少年を睨み返した。  ―――――次の日、叶多が消えた。
/105ページ

最初のコメントを投稿しよう!