第二章  -消えた記憶-

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「……叶多? ……誰だそれは」 「…………!」  とたん、颯真は膝の力が一気に抜けたように床に崩れ落ちた。 「お、おい、颯真?」 「何騒いでんだよ、颯真。こんな朝早くに」  騒ぎを聞きつけて大和が寝ぼけ眼で部屋に入って来たのを見たとたん、颯真はパッと結月から離れ、今度はすがるように大和のもとへ駆け寄った。 「大和! お前、叶多を覚えてるか?」 「……叶多って?」  結月と同じく、大和も怪訝そうな顔をして颯真を見返すだけだ。  颯真はじれたように大和の肩をつかみ、強く揺さぶった。 「覚えてないか?……本当にお前の中に欠片も叶多の記憶は無いか?」 「颯真? どうしたんだよ、一体」 「思い出してくれ! 大和!……お前の中にあるはずだ。叶多の記憶が……」 「はあ? ちょっと、痛てぇじゃねえか」  つかまれた腕の力の強さに大和が顔をしかめる。 「いったい何なんだよ。叶多って誰だ?」 「いい加減にしろ、颯真」  結月の手によって引きはがされるように大和から離され、颯真は茫然とその場に立ちすくんだ。 「…………」  大和が探るような目を颯真に向け、それをそのまま結月の方へと移動させる。 「どうもよくわからないんだが、叶多……という奴がいなくなったらしい」  困惑した表情で結月が大和からの無言の問いかけに答えた。 「……叶多?」  大和は低くつぶやくと、ゆっくり部屋の中を見回し、ひどく不思議そうに首を傾げる。  やはり何も覚えていないようだった。
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