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というのも、叶多は地元がこの近くである颯真とは違い、昨年六月に遠い地方の高校から転入してきた、いわゆる転校生なのだ。
しかも叶多は中性的で優しげな顔立ちをしていて性格的にもおとなしいほうに分類される。
常に学年10位以内の学力をキープし続け、寮長であり生徒会会長である結月という生徒とも従兄弟で、まるで実家のように校内および寮内を我が物顔に歩いている颯真とは根本的な性格が異なるのだ。
だからといって颯真が叶多を苛めているなどということは決してない。
転入当初、誰とも打ち解けようとしなかった叶多に率先して話しかけ、誠意をこめて親友の立場を築き上げようとしたのは、ほかならぬ颯真自身だったのだ。おかげで叶多も今ではすっかり学校にも寮生活にも馴染んでおり、そのことは叶多も感謝している。
極端な話、颯真がいなければ今の叶多はいなかったくらい、颯真の存在は叶多の中で大きな位置を占めていたのだから。
「じゃあ、大通りの大型書店に行きますか」
ため息とともにそんな言葉を発し、叶多は先に立って地下街を出口に向かって歩き始めた。
「悪いな、付き合わせちまって」
「いいよ、もう。じゃんけんに負けて買いだし係になったのは僕ひとりだったのに、荷物持ちに立候補してくれたその心意気に免じて許してあげる」
くすくすと笑い声をあげながら外出口への階段を上り終えた叶多は、地上の人混みの多さに閉口しておもわず足を止めた。
「ただし、今度買い出しに出かける時は、もうちょっと時間ずらそうね。さすがにこの時間帯って人混みが凄すぎだ」
「その意見には大賛成」
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