第二章  -消えた記憶-

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 颯真の説明に結月が感心したように頷いた。 「簡単に言えばそういうことだ。その所為で、俺達には二つの過去が存在することになってしまった。叶多に出逢った過去と、叶多と出逢わなかった過去だ」  叶多がいた過去。いなかった過去。  助かった正人と、助からなかった正人。 “……こいつを連れて行く”  恐らく、叶多は颯真達に出逢わなかったほうの過去に連れ去られたのだ。  正人の手によって。  叶多の行動によって死ななかった正人は、死ななかったことによって何か力を手に入れたのかもしれない。正人が望むなにかを叶えるために。 「……あいつが叶多を連れて行った」  叶多のベッドの上で、じっと叶多のことを見つめていた正人。 「俺では無理だからって……そう言って」  ひるがえったカーテン。一瞬熱くなった部屋の空気。 「そう言って、連れて行ったんだ」
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