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今日は、野々村さんと式場選びを兼ねた、ドレスの試着へ来ている。俺は、ほぼここでいいと思っている。さすがにジューンブライドは無理なので、秋に挙げる予定にしている。野々村さんからはもっと早くして欲しいと随分抵抗にあった。
理由はわかりきっている。
単に『修学院かれん』に会いたいだけだ。
「本当におかしくない?」
淡い藤色のドレスを着て、鏡を見ながら野々村さんが何度も訊いてくる。
「よう、似合ってるで」
野々村さんは、布で花を作ってあったり、大きなリボンがついていたり、レースがたくさんあしらってあるようなドレスは「これは、いたい」と避けていた。全体的にほっそりとしたラインのドレスで、上品な感じだ。
「ほんまかなあ」
本人は納得いかないようだ。
「やっぱり、和装がええんやけど、思いっきり顔を隠してくれるのを被って」
「ああ……それも見たいなあ」
あの被るやつは、なんて名前だったか。また式場の人に訊いておこう。
「もう、神前式をあげて終わりでええと思うんやけど」
「あかんあかん」
「何回もお色直ししたら、この年で、何浮かれてるんやと思われるだけやん」
「誰が何を思おうが、かまへんやん」
なんなら誰も呼ばなくて良い。まあ、約束なので由香のことは呼ぶけれど。
「由香もその方が喜ぶで」
野々村さんの表情がぱっと明るくなる。
「ほんまに? そんならええけど。かれん先生はどんなドレスが好きなんやろ」
由香は、まあ地味顔にはどうかと思うような、メルヘンな服を好む。
「由香の好みのは……やめといたら?」
「そうやな、やっぱりみっともないなあ」
年齢の問題ではない。
「美人タイプには合わへんかもなと……好みの感じの見てみるか?」
野々村さんが嬉しそうに頷く。これは、由香の好みだと言えばどんなドレスでも着てくれるんではないかと、悪い考えが浮かぶ。
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