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「何も覚えてへんのやな」
荻原さんが、ベッドのはしに腰かけた。
「最初に言ったけど、頼まれたことしかしてへんし」
何を頼んだのか、知りたいけど知りたくない。
「ほんまに覚えてへんてか。ショックやな……」
荻原さんが、大きなため息をついた。
「まあ、こんなもんやろ……俺なんて」
荻原さんは立ちあがった。
「とにかく体洗ってきい。服は後でアイロン当てたるし、家まで送るわ」
部屋を出て行った。
私は、昨夜のことを思い出そうと努力をしてみる。さすがに、動画は確認する気にはなれない。
荻原さんは覚えているのに、自分は知らない。好ましくない状況だ。
いっそのこと、訊いてしまおうか。
雪山遭難ゴッコよりは、ましな気はする。熱いシャワーでも浴びて、頭をすっきりさせれば思い出せるかもしれない。
しかし、荻原さんの家には初めて来たが、整理整頓されている。
大きめのTシャツで太腿の半分くらいまでは隠れる。下着がないのは落ち着かない。だからと言って借りるのも抵抗がある。
部屋を出た。荻原さんが、キッチンで冷蔵庫を覗いている。私に気づいて出てきた。
「覚えてへんらしいし、案内するな」
お手洗いとバスルームの場所を教えてもらった。
用を足し、バスルームを覗いた。本当に、服のままシャワーを浴び始めたというのか。洗濯機の近くに、私の下着が干してある。ショーツに手を伸ばす。乾いていた。スーツやブラウスはベランダだろうか。
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