7007人が本棚に入れています
本棚に追加
冷静に考えると、荻原さんにはかなりの迷惑をかけてしまっている。後で、謝ろうと思った。
ふと気づく。もしや私は今、すっぴんなのでは……。
慌てて洗面台の前に立ち、鏡を見た。
すっぴんはすっぴんだった。ただ、やけに肌つやが良い。昨日ツバメの巣のスープを飲んだからかもしれない。こんなに即効性があるとは驚く。
とんでもないくすみ顔をさらしたかと思ったが、ほっとした。
少し気分を持ち直した。早速シャワーを浴びることにした。
掃除も行き届いている。
自分の家に連れ込まなかっただけ、助かった。ここまでは綺麗にできていない。
だらしなくも見えないが、几帳面な印象もなかった。
「良い奥さんになれそうやな」
荻原さんは多分、五つくらい下だった。男の人だし、まだまだ結婚の可能性はある。ばりばり働いている人と結婚すれば上手くいくんじゃないかと思う。
顔は、ハンサムではないけれど、地味目なだけで不快な感じではない。背は普通だが、体は結構引き締まっていた。
仕事がマイペース過ぎるのはどうかと思うが、お客様には頼りにされている感じはする。
本当に誰かと結婚すればいいのに。きっと幸せな家庭を築けるタイプだ。
私は、三十代に入った頃にはもう、結婚に向いていないことには気づいていた。
他人とは絶対に暮らせないという自覚がある。
一つ、後悔していることがあるとすると、シングルマザーになっておけば良かったって事くらいだ。それも、実際、子供がいたら、上手くいかずに後悔していたかもしれない。
そんなもんだ。
もう、子供が作れる年齢でもない。今は、老後の資金の心配だけしておけばいい。気楽な立場になった。
シャワーを浴びた。ふと、荻原さんに名前で呼ばれた記憶が蘇った。背中の産毛をなで上げられたような感覚が走った。
最初のコメントを投稿しよう!