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「逆に、どうして忘れとるんか……意味わからん。あんだけ……」
荻原さんが眉根をよせた。
「そこまで迷惑かけたんや……ごめんなさい」
「迷惑やないって言ったやろ」
本当に私は何を頼んだのだろう。
「私……名前で呼んでって、頼んだりした?」
荻原さんが私の顔をじっと見ている。気まずくて目をそらした。
「少しは覚えてるんや」
やはり頼んだようだ。
「思いだせへん方が気色悪くないか?」
たしかに、そうだ。ただ、内容がひどそうだから、積極的に思いだす気にもならない。
「知りたくなったら訊いて」
荻原さんは食器を片付け始めた。キッチンへ行く前に「コーヒーまだあるで」と言われた。
「ありがとう」
これ以上は思い出せる気がしない。ずばり聞かされるのも……。荻原さんは怒ってはいない。私の体が汚れるような何かだとしても、シーツは汚れていなかった。
順番もわからない。
荻原さんが戻ってきた。カップにコーヒーを注いでくれる。
「そんな顔しんといて」
「気になってはいるんやけど……訊くのが怖くて」
「怖がるようなことやないで」
多分、恥ずかしいことなんだと思う。
「忘れはせえへんけど、夢やったと思うわ」
荻原さんが寂しげな顔をする。
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