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過去との遭遇
私は、ゴールデンウィークにどれくらい仕事を入れるか悩んでいた。最近は、週の大半を荻原さんの家に泊まりに行って過ごしていた。
今日はミーティングのあと二十代の女子二人から、ランチに誘われていた。二人の希望でパスタランチへ行くことになった。
「最近、野々村さんファンデーション変えたりしました?」
最初の質問がそれだった。
「別に……」
「そうなんですか? なんか、肌のきめとか透明感とか……前からきれいだったけど、さらにきれいになったなあって、二人で思っていたんですよ」
思い当たることといったら、あれしかなかった。
「食事に気を付けるようになったかな?」
夜遅くの商談がない限り、荻原さんの用意してくれたものを食べていた。
「やっぱり食事ですかあ」
微笑んで誤魔化した。
私たちは、相変わらず付き合ってはいなかった。
荻原さんのことをどう思っているかというと『好き』とは違う気がする。
ランチから戻る。営業所の前で、沢村君が女性客の応対をしていた。
ショートカットの気の強そうな女性だ。何かのクレームかというほどの雰囲気だった。
「申し訳ございませんが、ただいま荻原は出ておりまして」
「連絡を取って欲しいの」
「連絡はいたしましたが、あいにく商談中のため、少しお待ちいただかなければならないかと」
「じゃあ、待たせてもらいます」
荻原さんは、アポを入れない日のはずだ。
沢村君が女性を相談ブースへ案内する。
戻ってきたので、訊くと、とにかく荻原さんを出せと言っているらしい。こんな日に限って営業所長は本社へ出張している。
「申し訳ありませんが、アポがあって出るので荻原さんに連絡を取ってもらえますか?」
私のアポは夕方以降なので、余裕がある。引き受けることにした。
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