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僕は歓喜した。
今日は僕の人生における特別な日になるだろう。
必ず、この祝福すべき時に立ち会わなければならぬと決意した。
僕は所詮男である。
男には出産の苦しみがどのようなものかわからぬ。
が、人によると鼻の穴からスイカをひりだす痛みとも聞くからには、妻は病室の扉をジリジリにらみながら僕が来るのを今か今かと待っているに違いなかった。
僕は、しがない会社員である。一度は作家を志し、国文科に進学し勉学にもいそしんだ。けれども運に関しては、人一倍に見放されていたのであった。
結局才能の芽は枯れ果て、会社員に甘んずることとなった。
何一つ良いことのなかった人生の唯一の花たる妻の入院先から電話をうけ
きょう3時半すぎ僕は上司同僚に見送られつつ会社を出発し、野を越え山越え、3駅はなれたこここのシラクス産婦人科にやって来た。
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