3月8日

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3月8日

『今日は特別な日だ。』  依子は下ろしたての日記帳の「3月8日」に、そう書き込んだ。文具店の紙袋から取り出したばかりのまだ硬い日記帳は、ページを開く癖付けが付いていなくて、書きにくい。それでも依子は、手の平で押さえつけながら、一字一字丁寧に書き込んでいった。 『亮さんに好きだと言われた。やっと言ってくれた。嬉しい。涙が出そう。』  湯気のように浮かぶこの柔らかい気持ちを、どうにか形に表して、次々に羅列していく。  依子の住んでいる借家は、安普請で壁も薄い。溢れる嬉しさを大声で表現する訳にもいかず、ただ黙々と日記帳に向かって叫びをぶつける。 『まだ信じられない。まるで夢のよう。三日坊主の私だけれど、いつまでもこの嬉しさを覚えていられるように、ペンを取った。』  そこまで書くと、依子ははしたなくも鼻から大きな息を吐いて、いつの間にか上がっていた肩を下ろした。
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