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その直後のことだった。男とすれ違うように、公園に二人の警察官が現れる。
「通報があったのは、ここのベンチですよね」
「ああ。不審者が寝ているとの通報だったんだが、誰もいないな。一応この付近の見回りをしながら帰ろう」
警察官たちは、公園に何も異常がないことを確認すると、周辺のパトロールを始めた。すると、その途中、道端で家を覗き込むようにしている、いかにも怪しい男を見かける。近付いて声をかけてみると、男は明らかに動揺した様子で言った。
「……な、なんですか? まだ何もしていませんよ」
「まだ何も……ですか? どうやら詳しくお話を聞いた方がよさそうですね」
呆れたように苦笑いしながらも、警察官たちの目が鋭く光る。間抜けな男は慌てて口を手でふさぐが、今さら誤魔化しようもなかった。両脇をがっちりと支えられ、そのまま連行されて行く。
その後、男は空き巣の常習犯であることが分かった。まさに獲物を物色しているところだったのだ。犯行に及ぶ前ではあったものの、未遂罪として立派な犯罪である。男も観念した様子で素直に白状し、呆気なくお縄を頂戴することとなった。
お手柄だった警察官たちは、一仕事を終え、息抜きをしながら空を見上げる。
「ああ、事件を未然に防げるというのは、素晴らしいことだな」
「本当ですね。今日は他に事件も起きていませんし、穏やかでとても良い日です」
「そうだな。退屈なようでも、やはり平凡であることが一番かもしれない。こういう日が、少しでも長く続いて欲しいものだよ」
朗らかに会話をする二人の上空には、相変わらずの澄んだ青色。陽を遮る雲はなく、お天道様は全てを見ている、とでも言った様子だった。こんな日に、悪いことなど起こるはずもない。いや、起こるべきではないのだ。誰もが抱く、そんな印象の通り、今日という日は、あたたかく静かに過ぎて行こうとしていた。
めでたしめでたし――。
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