因果律

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 一方、男に蹴られた石は、思いのほか飛距離を伸ばし、緩やかな坂道を下っていた。転がりながら跳ね、やがて近くのゴミ捨て場に飛び込む。そこでは、ちょうど一羽のカラスが熱心にゴミ漁りをしている最中だった。  突然の石に驚いたカラスは、カーと叫んで慌てて飛び上がる。そして、逃げるついでに、塀の上に置かれた植木鉢をひっくり返して行った。落下した植木鉢は、その下に止められていた自転車のかごの中へ。ガシャンと割れて土を撒き散らした。  それからしばらくして、目の前にあるアパートの一室から、自転車の持ち主である男が現れる。全ての支度を整え、これから外出しようと思っていた矢先、その惨状に気が付いた。 「……何だ、これは? さては、またお隣さんか。危ないから植木鉢を塀の上に置くのはやめてくれと言っているのに」  男はかごの中から植木鉢の破片を一枚つまみ上げるが、ため息とともにまた元へ戻した。 「……やれやれ、今掃除するのは面倒だな。たまには歩くか」  男は土まみれの自転車をそのままに、仕方なく徒歩で出かけることにした。幸いなことに、特に急ぐ理由もない。のんびりした休日で、買い物がてら一人で気軽にブラブラする予定だったのだ。それに、散歩をするには良い日和でもあった。
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