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そんな二人のやり取りを、ベンチにだらしなく寝そべりながら眺めている男がいた。
「何だよ。昼前からいちゃつきやがって……」
悪態をつくこの男は、結婚まで考えていた相手に振られたばかり。昨夜は自棄酒をあおって、目が覚めたら公園のベンチだった。重い体を起こして座り直し、大きくため息をつく。
「……分かってる。分かってるんだよ。俺もあんなふうに優しくなれたらなぁ……」
その時、男のすぐ後ろの方で、子供の泣き声がした。振り返ると、小さな女の子が二人いて、一人が泣きじゃくっている。男は迷ったが、声をかけてみることにした。
「君たち、どうかしたのかい?」
尋ねると、少女は嗚咽交じりに答える。
「リボン、落としちゃったの……お揃いだったのに……」
よく見れば、もう一人の少女の頭には、蝶のような形をした、赤く大きなリボンがあった。
「ああ、これとお揃いのリボンか。この公園で落としたの?」
「……うん。さっきまではあったの……」
少女はそう言いながらも、どうしたらいいのか、分からないでいる様子だった。一言に公園と言っても、小学校の校庭くらいの敷地面積があるのだ。小さな少女二人には、手に余る広さだった。
男は辺りを見回してみる。人通りは少なく、ゴミ一つ落ちていない綺麗な公園で、今の時期は落ち葉などもほとんどない。リボンの色や大きさを考えれば、見つけられないことはないような気がした。
「……そうか。よし、分かった。じゃあ一緒に探してあげるよ」
男はそう言って、少女たちに手を差し伸べた。些細な気まぐれのようなものではあったが、誰かのために何かをしたい、そんな気分だったのだ。
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