第1章

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新しい国ができても、金がなければ運営は覚束ない。混乱した経済状態で新国債なんて買う奴がいるわけがなかった。そもそも国そのものが連鎖破綻を起こし、通貨の価値自体があやふやになったのだ。繰り返す暴騰と暴落。当然税金を納める連中だっていやしない。トップが変わればそのたびに増税のスパイラル。二重三重の徴収に黙って応じる馬鹿は生き残れない。 そうして気づいて見ればスーパーコングロマリット「ザ・ナイン」だけが私腹を肥やし、いつしか国連機関すら牛耳るようになった。コロニーに逃げ込んだ権力者はケツの毛まで毟られたに違いない。少なくとも骨抜きにはされただろう。水どころか空気まで有料なのだ。生殺与奪を握られて逆らう馬鹿はいない。 それでも地上の俺達にはコロニーの生活が憧れだ。幻獣や巨大植生の脅威に較べれば、安全を確約された人工の大地は何物にも代えがたい。防疫軍でもコロニー配備の宙軍勤務は憧れの部署である。戦闘は皆無。輸送とデブリ回収がメインなのだ。畢竟、セレブたちとお近づき――玉の輿のチャンスもあるかもしれない。 癪には障るが「ザ・ナイン」の恩恵なしでは生きにくい世の中だ。要塞化した都市を離れれば未だに難民の坩堝。俺の村がそうだった。要塞都市を運営する民営市局に登録しなければIDカードは貰えない。 カードがなければ消しゴムひとつ買えやしないのだ。 IDカードは信販と保険がセットになっている。市局との労務契約を結べば、未成年者でもクレジットカウントの前借りが可能だ。契約先が防疫軍ならかなりの額になる。命と引き換えの契約だからだ。遺伝子解析や体力測定、健康状態でのオプションサービスもある。俺はそのために売られたのだ。ま、都会に行きたい気持ちもあったし、嫌々売られた訳じゃない。苦労はしたが後悔はしてねーさ。死んだ爺さんにも村にも世話にはなったからな。遺伝子未調整のみなしごなんか野垂れ死ぬのが当たり前。世知辛い世の中だ。くそったれ。 「それにしても」しばらく無事に進むと、腰抜け二等兵が頬を緩ませた。「助かったっす。俺達だけじゃ、マジ死んでたっす」目元が紅いのはアルコールのせいじゃないだろう。 「馬鹿」まだ助かってねーよ。怪我人は死にかけ。俺達は生き埋め寸前だ。「感謝すんのはまだ早い」 偉そうだが、俺は蒸れた股間が不快で仕方がない。散々漏らしたのは隠しとおすしかない。墓場まで持ってくパターンだ。
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