第1章

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楽観しすぎたか。排気循環の止まった地下坑内。俺はガスを疑った。ライフルとヘッドセットのチャートを確認。しかし有毒ガスは発生していない。レッドアラートは酸素濃度の方だ。 「射撃モードを最小に絞れ」この濃度ではバレルが保たない。異常燃焼は過熱を起こし、暴発する可能性が高い。パーティーの緊張は一気に高まった。ただの酸素溜まりなら問題ない。だが、植生汚染ならキメラとの遭遇は避けられない。 歩兵になってかれこれ一年。小隊指揮なんてしたことがないし、地下での戦闘なんて前代未聞だ。新兵と負傷者を引き連れ、ライフル一丁でキメラと交戦なんて考えたくもなかった。だが、いくら辺りを伺っても敵の気配はない。俺達は前に進むしかない。恐る恐る。 「いーか。絶対パニックになるなよ」俺は先行するのをやめて何度も念をおした。 「先輩も怖いんすね」カートを囲む形になったせいで安心したのか、二等兵が軽口を叩く。赤信号を皆で渡る安堵。そうじゃねえ。「後ろから撃たれたくないだけさ」俺は嫌味で応戦。「俺が撃つまで絶対撃つな」さっきの戦闘の不味さを簡単に説明する。ネトゲじゃねえんだ。二人は黙った。あと先輩ってのもやめろ。 「――あ!」全員がぎくりと固まった。俺は声を挙げかけた二等兵を蹴飛ばし悲鳴を防いだ。ギリギリセーフ。騒ぐなよ。緩やかにカーブするトンネルの向うが、ぼんやりと光っている。なんだ? こんなの見たことねーぞ。 「ひ、ヒト?」光っているのは奇妙なサークル。燐光を放ちながら回転するリング。その前に佇む人影。「魔法陣?」傍らの二等兵が上手くまとめた。まてまて。ここは戦場。ネットじゃねえ。 声をかけるべきかどうか迷った。奇妙なサークルと重厚な法衣。誰もが見知った魔法使いの姿。テンプレートそのものだ。ただしデカイ。恐らく三メートル近い巨躯。旧式のサイボーグ擬体なのだろうか。魔法陣は眼の錯覚。擬体のライトがコンクリートを照らしているだけなのかもしれない。 「おやおや。ネズミがこんなところにまで」ゆっくりと振り向いた横顔。削げた頬。太い鼻梁と分厚い唇。紛れもない生身の人間である。しかし、その瞳は怜悧冷徹。まるで虫けらを見つめるが如き嫌悪を宿していた。「少し、掃除をしておきましょうかね」 ――! 重厚な法衣が翻る。男の肉が急激に膨張し内側から溢れさせたのだ。「それ」を。
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