第1章

3/23
26人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
土を掴んだまま這いずり、戦闘車両の影へと身を隠す。幸い幻獣の群れは進む向きを変えたようだった。敵――クトウルーの幻獣は死んだ人間に興味を示さない。幸いも何もいよいよ独りぼっち確定。孤立しているのは確実。風前の灯火。 銃を支えに立ち上がり、連隊長の遺骸を探した。戦術観測員レベルの情報コードが必要だった。上級回線へのアクセスは軍規違反だが、GPSとマップだけではどうにもならない。都市奪還。ボーナスステージ並の「お気楽」掃討作戦が、どうしてここまで壊滅したのか。右も左も幻獣だらけ、どこに逃げたらいいのかさえ判りはしない。 戦況から推測するに、超級キメラが出現した訳ではなさそうだった。ワイバーンやガーゴイルの飛翔タイプは姿をみせていないし、生体レーザーも降っては来ない。となると、先の侵攻作戦を逃れた中型幻獣が戻ってきたか、地下茎から新たに孵化した一群が伏兵となったかのどちらかだ。 端末を繋いで回線を開く。杜撰にもパスコードはブラウザに記憶済みだった。とんだおマヌケ将校様だ。俺は血に塗れたヘッドセットを睨んだ。死に損なったのはアンラッキーだが、コイツの下で働いてたら命が幾つあっても足りなかったに違いない。戦友には悪いが、これも運ってやつだろう。 IDを奪ったついでにハイエナしたいところだが、そんな時間はなさそうだった。戦線は寸断細切れ。哀れな歩兵部隊は完全に孤立している。つか迷子同然だ。援護なんか期待できっこない。それどころか、場合によっちゃ自陣からの「支援砲撃」でお陀仏って可能性すらある。俺は防疫軍の常套手段を思い出した。そうそうにケツをまくる悪い癖。かつての軍隊とは訳が違う。 身内に殺されんのは勘弁だぜ。かと言って大雑把な砲科の連中に命を預けるのはリスキー過ぎる。奴らはいつも後方で鼻歌まじり。機械任せ、GPS任せの連中にも分かりやすい目印が必要だった。じゃなきゃバラバラに吹っ飛んじまう。時間がなかった。 幻獣の侵攻ルートは西から。こっちの本隊は遥か東の後方だ。一旦北に向かい、街から出て運河を渡る迂回ルートか。真っ直ぐ後退する最短ルートか。選択肢はふたつ。幻獣の群れは扇型に広がりやや南に流れている。砲科の支援を頼むなら南西が最も効果的な筈だ。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!