第1章

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俺は奪ったIDで文書通信。当然音声通信はアウト。だが戦場で口がきけなくなるなんてな、よくあるトラブルだ。生き残りの歩兵部隊は自力での脱出指示。2ブロック下がった駅ビルを集結ポイントとする。選択は最短ルートだ。砲科には支援砲撃の要請。駅ビルを外した3ブロックを集中攻撃せよ。手柄はくれてやる。但し、砲撃開始は落日と同時。これは絶対だ。つまり、これから3時間弱が命の期限。タイムリミットって訳だ。 迂回ルートを選択しなかったのは運河のせいだ。やたらと開けた地形。長い橋。幻獣と遭遇しても身を隠せない。追いすがるキメラ達を支援砲撃で狙うにせよ、運河を破壊すればペナルティーは間違いなし。これは侵攻戦じゃない。奪還制圧作戦なのだ。 かつて地上を分断していた見えない線――国境。人類がそれを失ってどれくらいだろう。俺はハイスクールでも真面目な生徒ではなかった。そもそも失ったのは俺じゃない。生まれた時には既に「こんな世の中」だったのだ。特に不都合は感じてない。無学高卒でも防疫軍でなんとか食えてる。進学は諦めるしかなかったが、戦場に出れば官位は関係ない。死は誰にでも訪れる。歩兵だろうが将校だろうが、均しく平等にだ。俺はおマヌケ将校の遺骸を後に走り出した。 闘う意味? 単純明快「食うため」だ。すなわち、これはビジネス。幻獣達から都市を取り戻し、要塞化する。更地にして建てなおす。宇宙コロニー並に強固なシェルと高層化。新たな橋頭堡。地下リニアで繋いだ都市は防疫軍の前進基地となり、新たな利益利権を発生させる。コロニーを新造するより遥かに低コスト。旨い商売だ。つまり防疫軍とは民間企業。国境なき地上を統治するハイパーコングロマリット「ザ・ナイン」の一部門にすぎない。国とか宗教とか、守るべきもののために闘うなんてな時代錯誤。映画館でしか売ってない。 俺のやってることはコンプライアンス違反に違いないが、兵士ってな生きて帰ってなんぼ。ギャラにしたって生きてなきゃ使えない。ま、歩兵はつぶしがきくからな。最悪傭兵にでもなんでも転職してやるさ。
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