第1章

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山育ちの俺は、脚力と体力には自信がある。野営や重い装備にだって音をあげたことはなかった。ボロけたアスファルトなんて、陸上トラックと変わりはしない。走りきってみせるさ。俺は唇を吊り上げた。メールボックスには返信が続々。いちいち確認返信はしてられないが、俺の他にも生き残りがいるのだ。見も知らぬ運命共同体。走れよ戦友。俺はヘッドセットの情報ウインドを閉じて笑った。もうコイツは必要ない。 ビルとビルの間を駆け抜け、広い道路は極力回避。かっぱらった弾薬は山ほどあるが、迂闊な発砲は幻獣を呼び寄せる。正直戦闘は懲り懲りだった。 ――! ――!! 散発的な発砲音。次いでグレネードの炸裂。ビルの谷間に爆風が押し寄せる。誰だ。戦闘は懲り懲りだつってんだろ。空気読めよ。 「かかってこいよ。おらあ!」どこの部隊にも必ずいる。馬鹿で愚かな英雄願望。脳筋タイプか引き篭りの食い詰めゲーマーか。街の喧嘩やRPGじゃねえんだ。ハッタリ虚勢もリセットもきかないリアルが判ってない。たちが悪いのは、先陣きって敵に立ち向かう蛮勇が案外部隊を仕切ってしまう現実。いっそ俺が撃ち殺したい。やっちまうか。どうせ誰も見ちゃいない。あ、や、冗談だ。向うは三人パーティー。勝ち目はない。 敵はポリプだった。不定形タイプの中型幻獣。浮遊する肉塊。殺意の悪性腫瘍。ライフルは効き目が薄い。幸い、グレネードが直撃して表皮の半分を焼くのに成功している。触手も動きが鈍い。 「おらおらおらおら!」嵩にかかったリトルヒーローはライフルを乱射。腰だめの姿勢で雄叫び。ジリジリ前進していく。残りの二人もそれに習って前進。馬鹿か。ポリプが動きを止めた今が逃げ時だろが。或いは新兵なのかもしれない。最低でも周り込んで十字砲火とか、虎の巻――歩兵教本読んでねえのかよ。俺はブクブクと泡立つ肉塊に肝を冷やした。不味いマズイまずい。 ――ビシュッ! 膨れ上がった肉塊は新たな触手を発生させ、凄まじい速度で三人を狙った。くそったれ! 俺は三点バーストで触手を狙った。直進する触手にライフルで立ち向かうのは難しい。だからこそフォロアーは角度を変えて、十字射撃を心得なければならないのだ。
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