第1章

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「あああああああっ痛ううう!」アスファルトを叩く悲鳴。残念。全部の触手を叩き落とすのは不可能だった。俺の腕じゃあふたつが限界。つかよく当たったな。俺は惚れ惚れとライフルに眼を落とした。胸を貫かれたリトルヒーローはそのまま持ち上げられ、激痛に身を捩った。もがくから傷口が広がる。溢れる鮮血。痛み。最悪の悪循環。 いきなりの反撃に残った二人は腰を抜かしている。持ち上げられたリトルヒーローを唖然と見上げ、なぜこうなったのかを必死に思い出そうとする眼。馬鹿野郎。俺の射撃だよ。運不運は単純に距離の差だ。リトルヒーローは前に出すぎたのだ。俺のせいじゃねえぞ。 舌打ちしながら前にでる。助けてやる義理はないが躯が自然に動いた。ハンドグレネードとブッシュナイフ。どっちが先だったか。 ――! グレネードの閃光。ブッシュナイフの手応え。落下したリトルヒーローを抱きかかえると、俺は腰抜け二等兵二人を蹴飛ばした。「馬鹿野郎。逃げんぞ!」戦闘は懲り懲りだつってんだろ。死んだらどうする。 どこをどう走ったのか。デパートらしき廃墟に逃げ込み、意味なく地下へと潜った。気づけば狭くて暗い個室。便所だった。 「な、なぜ便所に?」やられたリトルヒーローは口がきけない。腰抜け二等兵のひとりが荒い呼吸のまま俺を覗きこんだ。知るか馬鹿。ゴールは駅ビルだった筈なのに。俺が聞きてーくらいだよ。 傷は深かった。切り落した触手は左胸から肩甲骨を貫通している。ビロビロ動いて気味が悪いが、抜けば失血死するのは間違いない。「痛いだろうが我慢しろ」俺は医者じゃねえ。そもそも自業自得だ。リトルヒーローは小さく頷いた。痛みが顔を歪める。「しゃべるな。てめえの血で溺死すんぞ」横にはできない。リトルヒーローは便座の上でぐったり。俺はヘッドセットで酸素濃度を確認した。チャートはやや濃い目。植生は遠いが永らくクトウルー圏にあった都市だからだろう。リトルヒーローのヘッドセットを調整して、呼気循環をセーブする。これで少しは楽になる筈だ。 かつて人類を襲った大異変――ルルイエ浮上。旧イスラエルを襲った大地殻変動。ユダヤやキリスト教、イスラムまでが聖地とした大地は突如として牙を剥き、地軸までもを捻じ曲げた。陥没し引き裂かれたかの地は、地底に眠っていた古代都市を復活させたのだという。そしてそこから幻獣が出現したのだ。
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