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別に女の子を断ってまでハンカチを返して貰わなくても良いんだが、と清水は声を掛けようとしてふと思い直した。
いや待て。じゃあ、三人でとか言われたらそっちの方が面倒臭い。
「今までシロちゃん、絶対に塾でバイトなんかしなかったのに、今回だけ引き受けるとかさぁ……。もしかして、その連れってここの塾生だったりして?」
「うるせぇな。お前に関係ないだろ」
「もしかして、女の子じゃないよね……?」
あぁ、そうか。彼女はそれが気になっているのか。
清水は朋絵と呼ばれた中学生が士朗に好意を抱いているのだと悟って、一瞬だけチリとした胸の疼きを感じた後、隠れていた物陰から出た。
「あ、あの……待たせてごめん」
「おぉ、終わった?」
「あ、うん……」
「え? 何? 何で志栄館の人がこんな所にいんの?」
朋絵は心底驚いた様な顔をして見せた。
それもそうだろう。
待っているのが女では無く男だった事もあるだろうが、清水が通っている超難関と言われている志栄館高校はここから市街地に向かって二駅離れた所にある。
この辺りから通う生徒がいないわけじゃないが、ゆくゆく偏差値の高い大学を目指す者ばかりなので、こんな個人経営の小さな塾に通う者はまずいない。
合格率の高さをテレビで謳う様な大手に行くのが普通だ。
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