第一章

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「あ、僕は自宅がこっちなんだ……」 「ふぅん」  朋絵の舐めるような視線に若干気圧されてしまった清水は、後の言葉が続かずに黙り込んでしまった。 「良くその制服着て、シロちゃんの友達出来るわね」 「へ?」 「朋絵、お前ホントもう帰れよ。それ以上言ったら、金輪際口利いてやんねぇからな」 「なっ、わ、私はシロちゃんの事心配してるだけなのに!」 「頼んでねぇよ。ほら、帰った帰った」  女の子の強い口調は元々苦手だけれど、こんな風にあからさまに敵意を向けられると思っていなかった清水は半分は呆気に取られていた。  納得いかない素振りで踵を返した朋絵は、最後の最後まで清水を睨んで帰る。  黒縁メガネにマスクで顔は殆ど見えてないだろうけど、こう言う風体だと舐められやすいのにももう慣れていたし、それよりも志栄館の制服がどうこうと言う朋絵の言葉の方が引っ掛かる。 「わりぃな。口の悪いガキで」 「あ、いや……」 「後ろ、乗れよ。朋絵と鉢合わせない様、別ルートで帰ろう」  自転車のロックを外した士朗はサドルに腰掛け、長い足を投げ出して、後ろの荷台を指した。 「え……二人乗りって事? 僕、後ろに乗った事ないんだけど……」 「はぁ? マジかよ」 「ご、ごめん……」 「別に、謝る事でもねぇよ。そこ乗って、俺の腰にしがみ付いてな」 「ふ、二人乗りって見つかったら怒られるんじゃ……」 「だーから、見つかんねぇ様に帰るんだろ? 良いからさっさと乗れって」 「う……ん……」  恐る恐る荷台を跨いで、遠慮がちに士朗の腰元を掴むと、その手をグッと前にひき寄せられてつんのめる。 「なっ……」 「もっとガッツリ捕まってないと、振り落とされんぞ」 「あ、わ、分かった……」  頬に当たる士朗の背中に、清水の全身の体温が上がって行く。  こんな風に近い距離で他人と接する事がない清水には、刺激が強過ぎた。
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