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偏差値の高い進学校に通っている清水とは、まず関わる事のない人種だ。
少し伸びた髪を無造作に結んで、節の目立つ男らしい手は人を殴った事がありそうな厳つさがある。
「好きな人が欲しい。彼氏が欲しい。親友が欲しい。手を繋いでみたい、キスがしたい、セックスがしたい……ふーん、処女かね?」
違うわ。いや、違わないけど……ほっとけよ。
「夢と希望があって、いいねぇ……」
は? 夢とか希望とかあるわけねぇじゃん。
「で、そこのヤツは俺に何の用?」
隠れていたつもりなのに、ずっと見ていたせいか気配に気づかれていたらしい。
少し下がった目尻と緩い声、悪そうに見えるのはだらしない座り方と猫背のせいだろうか。
顔立ちはあまり怖くない。
「……それ、返して」
「あぁ、これあんたの? え、あんたの?」
「……ち、違うけど、そのノートの持ち主を知ってる。僕から返しておくから」
「ふぅん、あ、もしかしてあんたの好きな女のとか?」
黒縁メガネにマスクをしているし、制服だからどこの学校かはバレるだろうけど、ノートさえ返して貰えば今後関わる事もないだろう。
「き、君に関係ないだろ……」
「まぁ、そうな」
「僕、これから塾あるから、早く返してよ」
男が持っているノートに掴みかかろうとして、咄嗟に躱されつんのめる。
座っていたから分からなかったが、学ランの男は細身なのに身長が高くて、清水だって百七十ちょいはあると言うのに、立ち上がった彼は見上げるほどの体格だ。
これでもし喧嘩を売られてしまったら、絶対負ける。
そもそも人を殴った事など無い清水に喧嘩なんてムリゲーで、始める前から精神的に負けている。
「何……? お金払えば良いの? 別に良いよ……いくら?」
「いや待て、誰もそんな事言ってねぇだろ」
「なら、早く返してよっ!」
「うわっ、ちょ、おまっ……」
振り上げた男の手から呪いの書は池へと綺麗な放物線を描いてポチャっと落ちた。
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