最終章

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 清水が有村に殴られて負傷した後、朋絵から事情を聞いた士朗は、同じ学校に通っている警察署長の息子だと聞いて有村だとすぐに分かったのだと言った。  ブチ切れた士朗にボコボコにされてしまった有村は、それ以来、士朗の舎弟の様に士朗の後をくっついて回っているらしい。  バイトが忙しくてなかなか飯も一緒に食えないから、と士朗の代わりに食料の調達をしてくれているのが、この有村だった。  有村がどうしても償いとして買い出しをやりたいと言うので、受験シーズンが終わるまで忙しい伊勢谷先生の事もあって、有村の提案を受けることにした。  弁当屋でバイトをしている有村が、バイト先で弁当を調達して黒川邸まで持って来てくれる。  ガラが悪くオラオラしている割に、懐いた犬みたいに身の回りの世話を焼いてくれているのだ。 「透で良いって言ってるじゃないっすか、清水さん!」 「いやでも……僕の事も清水で良いって言ってるのに……」 「呼び捨てなんかしたら、士朗さんに殺されますって!」  生来の子分肌なのか、有村は終始こんな調子だ。  士朗の事を怖がっている様な振りではあるが、多分それは彼なりに士朗を持ち上げているつもりなのだろう。  清水はそれでも、ほぼ初対面に近いこのガラの悪い男を呼び捨てになど出来なくて、困ってしまう。   「じゃ、じゃあ……透くんで……」 「清水さんは優しいっすね!」 「べ……別に、普通じゃないかな……?」 「俺、あんな事したのに許してくれるなんて……。朋絵ちゃんなんか、俺の事下僕だと思ってますよ……」  士朗と一緒にいた時、朋絵に遭遇した有村が、同じ様に頭を下げて謝った時、朋絵は完璧な塩対応を見せたらしかった。 「朋絵ちゃんは僕にもそんな風だからね」 「マジっすか! 朋絵ちゃん、気強いっすよねぇ~。でも俺、そう言う女の子嫌いじゃないっす!」 「……そっか」  危うく清水は、だろうね、と答えそうになった。  有村は質の悪いグループの中でも上には立てないタイプで、それ故に見ていてたまに痛々しい事もある。 「ささ、食って下さい! 俺、下から水持って来ますわ」 「え? あれ? 透くんのは……?」  有村が抱えて来たビニール袋には、一人分のカレーしか入っていない。
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