最終章

6/42
前へ
/444ページ
次へ
 バイト先で士朗は別人の様に冷静で、近寄りがたいオーラを放っているだとか、士朗の就職先の近くの弁当屋でバイトしている有村は、先輩のリュウさんとのやり取りなんかも良く報告してくれていた。 「リュウさん、カッコいいんすよ!」 「へぇ……」 「何かこう……クールっつぅか、大人の色気出まくりって感じで! あれはホレるっす!」 「士朗と一緒に仕事してる先輩だよね?」  クリスマスの朝、この部屋のベッドで、士朗の腕に抱かれて目を覚ました日が蘇る。   「そうっす! 俺が士朗さんと仲良くしてるって知ってから、よく弁当買いに来てくれんすよ」 「良い人だね」 「でも、士朗さんの方がカッコいいっす」 「そっか……」  自分が知らない士朗が、有村の口からポンポン吐き出されると、時々焦りに似た落ち着かなさが清水の肌を撫でる。  今は受験に集中しないといけない。  そう自分に言い聞かせては、知り得ない士朗を知りたい欲もあって、有村の話に僅かに振り回されている。  有村は自分の用事がない時は、ほぼ毎日通ってくれるようになり、妙な出前システムは続いた。  清水は有村に一つだけ、来る時は一緒にご飯を食べてくれるようにとお願いすると、割と本気で嬉し泣きされて、若干引いた。
/444ページ

最初のコメントを投稿しよう!

183人が本棚に入れています
本棚に追加