最終章

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 有村は士朗に煩く言われるらしく、メニューは毎日違う。  昨日がから揚げなら、今日は鯖の味噌煮弁当。  サラダは毎回付いて来るし、おやつも必ず買って来てくれる。  士朗とは毎日携帯でのやり取りはあっても、もう暫く顔を見ていない。  電話で声を聞いても、触れたい衝動を満たす事は出来なくて、遠距離になったらこんな感じなのだろうか、なんて妄想が浮かんだ。 「今日のおやつはプリンっすよ! 脳が疲れた時は、甘いもんが良いって士朗さんが!」 「あ、ありがと」  いつも量が多いくらいで、清水はそれに文句を付けるわけにも行かなくて、苦笑いする。 「医者とか、やっぱ清水さん、すげぇなぁ」 「透くんは? 就職組なんだっけ?」 「俺、バカだから専門行きます」 「何の?」 「えーっと、何だっけ? パソコンとか……」 「自分が行くとこなのに、知らないの?」  清水は思わず笑ってしまって、有村はそれに恥ずかしげに「さーせん」と頭を下げる。 「いや別に、謝る事はないけど……ふはっ」 「清水さんは優しいっすよね」 「え……、だから普通だってば……」  太鼓持ちとはこう言う類の人間だろうか。  有村は事あるごとに、清水を褒めるので、清水は時々返す言葉に躊躇う事がある。  そんな彼でも、こうして一緒に食事をしてくれると、日々机に向かっているストレスが軽減されるのだから、有難い。  良く喋る有村のお蔭で、誰もいない広い洋館に一人でいると言う事を、暫く忘れていられる。
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