最終章

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 受験の前日――。  見送りに来てくれる予定だった士朗は、またバイトが入ったと連絡があり、代わりに駅まで付いて来てくれたのは有村だった。  出発前夜には特大のトンカツ弁当持参で、有村の方が緊張していると言わんばかりの狼狽ぶりに清水は少し笑いが出てしまう。  目の前の人間が自分より緊張していたお蔭で、妙に冷静になりぐっすり眠れてしまった。  一泊して受験に臨むので、有村のお蔭もあってまだ緊張してはいなかったけれど、会えると思っていた士朗に会えなかった事が、清水のモチベーションを駄々下げた。  前の日掛かって来た電話で、何回もごめんと繰り返していた士朗を責めるわけにはいかない。  これから社会人になる士朗にとっては、就職先からちょっとした無理を言われても受けておいた方が良いに決まっている。  清水は精一杯、大丈夫だよ、と平然を装って見せた。  だけど本当は、新幹線に三時間、一人で乗るのだってまだ怖い。  士朗なら事情を知っていてくれるので、顔でも見れたら少し安心するだろうと思っていたのが、水の泡だ。  仕方ないけど、仕方ないと分かっていても、次はいつ会えるんだろうかなんて、マイナスな思考が過って行く。 「士朗さんが、新幹線に乗ったら七夕のお守り見てって言ってました」 「……七夕のお守り」  すっかり忘れていたソレを、清水は思い出すまでに少し時間を要した。
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