最終章

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 到着アナウンスの声に我に返って、清水は慌てて新幹線を降りた。  “清水へ”の後が気になったが、俄かに気が動転していて人のいない所に行ってからじゃないと、ノートを開けない。  人の行き交うホームから、階段を下りて改札を出る。  人混みの中を掻き分ける様にして先を急ぐ自分が、滑稽だと気付いたのは、改札を出た後だった。  リュックの口は開けっ放しで、手にはノートを引っ掴んだまま歩いている。  改札前の立派なショウウィンドウに映った自分は、いつもの様にメガネにマスクで完全防備で、まるで誰かの荷物を引ったくって逃げてます、とでも言わんばかりだ。  清水が慌てているのには、到着寸前の知らせに焦った事以外に、もう一つ理由があった。  それは、士朗からの手紙の様なページの最初の一文がチラリと見えた時、その最初の言葉が“ごめん”から始まっていたからだ。  驚いた瞬間、到着アナウンスが聞こえて、荷物を抱えて飛び降りた。  早く読みたいけれど、人がいっぱいいる所で立ったままノートを広げる勇気はない。 「あっ……ト、トイレ……」  思わず口に出して、清水は広い構内でトイレを探して、その個室に入った。  便座の蓋の上に腰掛けて、個室だと言うのに辺りを気にして周りを見渡してしまう。  引っ掴んだままのノートをソロリと開けて、件のページを開いた。
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